2015年11月28日土曜日

里山の「保全×活用」方法を考える

~暗渠排水での粗朶(そだ)利用の現場を見学してきました~


里山プロジェクト実習は、里山の自然を理解し「保全×活用」する方法を考えるためのプロジェクト型実習です。
1回目のテーマは「農業用水路における粗朶(そだ)の利用」、訪問先は琵琶湖干拓地の一つである「大中の湖・土地改良区」です。事務局長からお話を伺いながら、農地の暗渠排水に粗朶を活用している施工現場を見学してきました。



大中の湖は、琵琶湖の東岸に位置し、かつて40数か所あった琵琶湖の内湖の中で最大の面積を有した湖です。戦後の干拓事業を経て広大な農地へと転換し、現在も稲作、野菜栽培、肉牛飼育等が行われています。


暗渠排水とは、水田を必要な時に乾田化するための方策の一つ。穴の開いた管(暗渠管)を地中に埋め、その管に水をしみ出させることにより排水路へと誘導していく仕組みです。暗渠管の穴を土詰まりさせないための被覆材として、粗朶が活躍します。




あらためて、粗朶とは?里山林から伐り出した低木や細い木の枝を、規格に従って束ねたものです。「おじいさんは山へしばかりに…」に出てくる「しば」がそれです。広葉樹であれば樹種は選ばず。見学した現場で使用されていたものは溝幅に合わせたサイズになっており、周囲径15cm/長さ3mの粗朶(大半がアラカシ)でしたが、通常規格は周囲径20cm/長さ2m70cmとのこと。
この粗朶の下に、暗渠管(黒いW管)が敷かれています。








水田から野菜栽培へと移行する短い期間に、暗渠排水の工事は行われます。上流用水側・下流排水側の設置、掘削、暗渠管と被覆材の投入、埋め戻し等、トラクターや掘削機、ユンボといった重機を扱っての作業もあれば、手作業もあります。作業方法は、施工者(農家もしくは委託業者)がどんな機材を所有しているかによって決まります。
被覆材として使うのは粗朶の他に、竹材、木材チップ、瓦材があります。何をどう組み合わせて使用するかも作業方法と同様、施工者の得意分野が何かによって決めていくそうです。








実際の施工は各農家もしくは委託業者が行いますが、補助金申請や材料手配は土地改良区事務局が行っているとのこと。事務局のある敷地内には、WU管(暗渠管)や竹材、塩ビ管といった材料が積まれていました。






現場見学を終えた後、事務局に戻り、あらためて「干拓の歴史」についてレクチャーをいただきました。



戦中・戦後の食糧事情に合わせて干拓計画が立てられたものの、実際に営農を開始できたのは昭和41年、工事が完全に終了したのは昭和47年。対して、水稲の作付制限開始が昭和46年。つまり、米を作り始められるようになったわずか5年後には、米の生産調整が始まったということです。




稲作だけでなく野菜栽培に力を入れざるを得なかった背景を知るとともに、必要性があって暗渠排水の技術構築・蓄積がなされてきたことがうかがえます。




粗朶を暗渠排水に利用していく上での課題は1つ、「必要な量が手に入らない」という点です。短時間での大量供給が難しく、大中に粗朶を卸している会社の話によれば注文を断らざるを得ない時もあるとのこと。
需要(出口)があればこそ、里山の活用方法として粗朶生産は有効であるかのようにも思えますが、実際には、生産者側からみると、作業に手間と時間がかかったり、単価が高くなりにくかったりと、そう簡単にはいかないようです。
例えば、「現代版 百姓」を思い描いて田舎へ移住してくる若者が、粗朶づくりも、小さいけれど一つの生業として「やってみよう」と思える仕組みが必要になってくるのかもしれません。




山村づくり講座 1年生   岡 亜希子