2015年2月24日火曜日

自分の成果を示せ!

学長の見識あるアドバイスに耳を傾けよ!
 
 
 今日は森と木のクリエーター科の課題研究発表です。年代層は24歳~70歳、前職も教員
や公務員、会社員、NPO職員、大学生などさまざま。そうした学生が長い者は1年以上、短
い者でも半年以上にわたって研究してきた内容について発表しました。

 
1.笠木遼一さん「林業の労働災害はなぜ起こるのか」
 林業は死傷年千人率が約30人と他の産業に比べ高い。今回調査したA事業体はその数値が
142.9人と非常に高いため、過去の災害を分析すると全体会議による情報共有や、安全対策
としての防護ズボンの着用義務について、組織として取り組むことが重要であることが分
かった。

2.竹川大登さん「森林所有者が行う立木の在庫管理」
 静岡にある実家の会社が生産する原木の流通を探る中で、自社が三重県に出荷した原木
を地元の製材所が購入している事実を知り、流通の無駄を省く直接取引の重要性を感じ
た。そこで地元の製材所が欲しい情報を山側が提供できるよう、自社有林の在庫を立木で
把握できるようなシステムの構築を検討した。

 
3.富井邦彦さん、「ナラ枯れ材の利用促進に向けたテストマーケティング」
 林内に放置されるナラ枯れ材の利用に向けて、マーケティングを行い、木工製品を試作
して一般の消費者がどのような感想を持つのかを調査。見た目、性能、金額から、消費者
が購入したいと思うおもちゃを製作をすることで、ナラ枯れ材が利用されることが分かっ
た。

 
 涌井学長からは労働災害についての認識や木材流通における山側の考え方、利用されて
いないナラ枯れ材利用に向けた研究に対し、それぞれ今後に向けたアドバイスと評価があ
りました。

 
 
4.蒲 隆夫さん、「被差別部落の高齢者介護予防」
 過去本人が関わり支援しながら共に生活してきた被差別部落の高齢者を対象に、木工
を核として地域に出やすくなる環境づくりを実践。
 木工は誰に対してでも、介護予防効果になり、地域の人や子どもたちとの交流につなが
り、NPO団体職員の意識の変革など、高齢者は地域に出て行くきっかけづくりに重要だと感
じた。

5.久野茂治さん、「親子の気持ちが通い合う、木のおもちゃ開発」
 おもちゃにはコミュニケーショントイ、ヒーリングトイなどがあるが、遊びを広げるた
めの「カタカナカー」を試作し、親子がコミュニケーションをとるためのおもちゃを提
案。

 
6.多和 寛さん、「和傘の傘骨の簡易な製造方法の確立」
 和傘の傘骨となる竹加工は、岐阜市在住の60代の方2名が全国の材料を担っている。そ
こで和傘材料づくりで機械化が進んでいる骨屋と轆轤屋を引き継ぐため、割の行程を切
断、削りの行程をサンダーなどで実施し、和傘をつくってもらってその精度を検証した。

 


 学長からは、ややもすると偏見される方々や高齢者に優しい切り口で取り組んだ研究、
おもちゃを通した新しい生活環境づくり、伝統工芸のためのイノベーションについて、
評価とアドバイスがありました。

 


7.伊藤恵美さん、「山村リワークの可能性をさぐる」
 うつ病に対して農山村の資源を応用した山村リワークができないかを検証した。共感や
協力してくれる人・専門家・機関を探して、関わってくれる人が自信を持ち、笑顔になれ
る場を作りたいと感じた。
 


8.最賀哲司さん、「伝統野菜の認定制度が地域づくりに及ぼす影響」
 小さな集落で守られてきた伝統野菜は苦い・辛い・不揃・手間がかかるなどマイナスポ
イントも多い。しかし限られた地域で栽培されることで、高齢者の生き甲斐的な側面があ
り、今後それをどう継承・販売していくかが重要であることが分かった。

 国際園芸アカデミーの上田善弘学長さんから、最賀くんの今後の進路、長野県阿南町で
の活躍に向けたエール。涌井学長からは伝統野菜をつくる上での獣害に対するコメントが
ありました。


9.松浦弘典さん、「他出者の集落参画。集落復帰についての研究」
 地方では人の空洞化につづきムラの空洞化が起こり集落の限界がくる現実。そこで他出
者である自分が移住しようとする広島県大竹市で、地域住民といかにコミュニケーション
をとり、どう集落復帰するかを検討し、他出者の復帰につながるポイントを探った。

10.水野三正さん、「都市緑地に残存する天然生二次林の樹種多様性」
 名古屋市の明徳公園、猪高緑地、平和公園南部緑地などで77種の木本種を確認し、名古
屋市の都市緑地保全への提言を検討した。種多様性の観点からもこれ以上緑地を開発する
べきでなく、また緑地の利用履歴の違いによって多様性が異なり、低木層には外来種のト
ウネズミモチやヤツデなどを確認した。

 


 涌井学長からは、リワークについてSD法とPOMS法利用についての提言、身土不二の諺から伝統野菜の可能性についてのアドバイス、多くの場合観念論に陥りがちな移住について実際論で切り込んだことへのエール、都市緑地の階層構造や遷移について、HEP指標などで緑地が生態系の中でのどのような位置づけになる検証をして欲しいとの発言がありました。

 


11.梅田弾平さん、「横架材端部の仕口耐力評価」
 近年の木造住宅はプレカットが常識になりつつあるため、その仕口を評価し、仕口耐力
早見表を作成した。今後は大梁(受け梁)仕口を評価する必要性、横架材では大梁と小梁
のバランスがとれた仕口設計の必要性を確認した。
 


12.遠藤比路子さん、「空き屋てれこ活用」
 2013年に日本の空き屋率は13.5%7.4戸に1戸が空き屋)。空き屋活用とワープステイを
促進するためには、中間支援組織が必要である。そこで地域の方に信頼される空き屋イン
タープリターの活用をする。空き屋が「てれこ(人の手を入れて交互にする)」に活用さ
れれば、楽しい地域になると考える。

13.タイ カロさん、「中国向け日本産材を使った木造住宅仕様の在り方」
 中国からの留学生であるタイさんの視点で、木材の入手が困難となった中国へ日本産木
材の利用を提案する。日本の軸組工法は中国の木造建築手法に似ているため、日本の木材
(集成材)とシステム化されたドリフトピン金物工法を併せて中国に輸出する。

14.ベン ユウさん、「断熱・気密工事における施工精度向上のための取り組み」
 省エネ対策のためには、外皮性能の重要性を意識することが必要不可欠と考え、文献で
社会的課題を調査、温熱環境専門家へのインタビュー、設計者・実務者へのアンケート実
施。そして外皮性能目的を理解してもらうことと、頭でなく体験してもらう重要性を確認
した。

15.山田実那子さん、「環境と人が共有する建築」
 レイチェルカーソン女史のサイレント・スプリング、国連開発計画のミレニアム開発目
標などから、「持続可能な建築をつくるには環境と人の相互作用が必要で、その建築の中
では環境と人が共存している」という仮説を立て、その検証を実施した。

 
 さて、涌井史郎学長からは、2×42×6の工法を先取る仕口耐力評価を取り組んだ
意味、空き屋の利用に対する不動産屋さん的活動の重要性、中国と日本との比較を通
して日本の木材利用のビジネスモデルの可能性の高さ、そして断熱・気密による問題
に具体的に取り組んだことの意義、バイオクライマティックデザインから見た建築を
つきつめたことに対し評価をされました。



 さて、朝から多くの卒業生や一般の方々に混じって、森林文化アカデミーの課題研究発表を
聞いて下さった国際園芸アカデミーの上田善弘学長さんからも全体評価をいただきました。
 
 上田先生は、森林文化アカデミーの幅の広い課題研究につて、その取り組み方や内容、成果
にエールを送って下さいました。有り難うございました。
 
 最後に、涌井学長が2日間にわたる課題研究について総評。
森林文化アカデミーで過ごし、学び、身につけた実学とその成果を集大成した学生たち、
そしてそれに応援して下さった先輩たちや多くの方々、そして学生たちとともにこの
ステージまで課題研究を指導してきた教員に対して、その過程と成果を評価する内容の
言葉を述べられたのです。


 さぁ、みんな、後は論文の完成だ。まだまだ頑張って下さいよ。
以上報告、JIRIこと川尻秀樹でした。
http://gifuforestac.blogspot.jp/2015/02/blog-post_13.html