2011年8月27日土曜日

アカデミーにおける木質構造教育について

こんにちは。今週1週間ブログ担当の小原です。早いものでとうとう7日目の千秋楽となりました。(といいましても、今日は6日目ですが、明日は恵那市岩村町で開催される「いわむら城址薪能」を鑑賞するためにお休みを戴いておりますので、明日UP予定のものを一日早くUPしてしまいました。すみません。)
名残惜しくて、非常に長い文章のブログ(ブログに入力する前に毎回ワープロで原稿を作成しているのですが・・・枚数を数えるとA4×5枚分の原稿です。)となってしまいました。最終日ですので、本日もどうぞお付き合い下さい。

今回のお話しは、「アカデミーにおける木質構造教育」についてです。

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◆日本における現在の建築教育の問題点について

まずは私が感じている「日本における現在の建築教育の問題点」を述べたいと思います。

一つ目は、建築関連の方が森林の状況を知らないことだと思います。例えば、岐阜県では、民有人工林の年間生長量は180万m3超あります。伐採されている年間木材量100万m3程度に対して、利用している木材量は約33万m3程度です。つまり、約67万m3が森林内に斬り捨て間伐されているということです。その量は利用している木材量の約2倍もの量となっています。このようなことを知っている建築関係者はごく少数です。

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二つ目は、建築関連の方が木材の性質や取り巻く状況などを知らないことだと思います。岐阜県産木材に関して言えば、1)ヤング係数・含水率の表示された材の流通システムを平成22年にやっと始めたところですし、2)岐阜県産スギ横架材スパン表で断面欠損を理論的に扱っているが木材加工寸法(逆に言えば、断面欠損寸法)に規格がない、3)木材ストック量が少ないことを知らずに3日以内で納品するように発注する、などなど。建築関連の方がもっと木材の性質や状況などを知って欲しいと考えています。

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三つ目は、そもそも木造建築教育がなされていないことだと思います。一般的に木造建築設計の実務では、1)木造建築の構造図などが描けない、2)木拾いができない、3)木材が即納されない、4)構造計算ができない、5)チラシの様な絵(決して図面とは言えない)でプレカットをする場合が多い(岐阜県では全体の8割程度といわれています)、などが現状です。木造建築は建築の世界では注目されないことが多いです。

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まとめますと、一般的に建築系大学などでは、1)意匠・構造・環境性能・コスト・施工性などを同時に考えて設計するような実践的内容の授業は少ない、2)木造建築・木質構造・木材・森林に関する教育時間数は少ない、3)既存建物の改修に関する授業は少ない、などが現状です。このため、前述した建築設計実務や森林・木材に関する問題点などを深く知る人材が多数輩出されにくい状況となっています。

あまり問題点を書きすぎますと、一般の方々が木造建築に対する不信感が芽生えてしまうかも知れませんね。しかし、毒舌小原ですから、「毒舌」をもって毒を制したいと考えています。こういった問題点を解決していくためのひとつとして、アカデミーにおける木造建築の体系的な教育があるわけです。

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また、日常の「暮らし」のための空間が木造建築です。専門が木質構造であれ何であれ、木造建築に関わることは、住まい手の「暮らし」をプロデュースすることに携わることです。(これは、F先生の受け売りの文言です。)そして、木造建築での「暮らし」は住まい手の人生とともに未来へと続いていきます。従いまして、長期間にわたり木造建築は大いなる責任を有すると考えています。


◆アカデミーでの木質構造教育について

アカデミーでは国内で先駆けて(各関係者の方、言い過ぎだったらすみません。)、前述した問題点などを解決する人材は勿論のこと、将来新出する問題も解決できる人材を育てています。そのためには、森林・木材から木造建築までを取り巻く状況を学ぶような実践的教育も絡めた木質構造教育であるべきであると、私は考えています。

アカデミーは創立11年目ですが、このようなアカデミーで木質構造教育を受けた卒業生たちはいろいろな場で活躍し始めております。例えば、「ぎふ清流国体」で利用する施設を木造建築で構造設計しているクリエーター科卒業生(Iさん)もおります。また、アカデミーへ高卒で入学し最終学歴がアカデミーですが、実務設計数や研究論文数などが同年代(現在26歳)よりも遙かに多く、その実績などが非常に評価されて大学院の修士学生に対して木質構造を教えているエンジニア科卒業生(Mさん)などもおります。また、意匠設計などで起業していろいろな場で活躍している卒業生も多いです。

木質構造の業界では、このような木質構造教育は「岐阜モデル」と呼ばれていますし、この木質構造教育を受けた卒業生たちは通称「岐阜軍団」と呼ばれるようになってきています。岐阜県の木質構造教育が全国的にも注目を浴びていることは非常に喜ばしいことですね。「東濃桧」、「長良杉」、「飛騨牛」、「長良川」、「下呂温泉」、「白川郷」などのブランドに負けないくらい「岐阜の木質構造」ブランドも全国区になるといいなあと考えています。


◆なぜ、木質構造教育が必要なのか

私はそもそも「世界中のこどもたちを幸せにする仕事がしたい」と幼少の頃から考えておりました。こどもたちを喜ばせるために、小中学生の頃からプログラミングでゲームをつくったり、ケーキ屋さんで・・・ ~小原の話は長くなるので、中略~

学生の頃になりますが、1995年に兵庫県南部地震があり、木質構造の研究室に所属していた私が震災調査に参加する機会が与えられました。その当時21歳の私は数多くの被災している建物を見て、「自分が木質構造をやらなければ、こどもたちを幸せにすることはできない」と感じました(・・・若かったですね。)。これは、私が木質構造の研究を続けていこうと考えた大きなきっかけとなりました。

木質構造の研究を進めていくと、いろいろなことが明確になっていないことだらけであり、木材、木質構造や木造建築について間違った知識を有している方々も非常に多いことに気づきました。

正確な知識を持つことは、問題にぶつかった際に、知識を持っていない場合に比べて、より早く、より正しい、「選択」ができることに繋がると考えています。小説「ハリーポッター」(ファンタジー・アドベンチャー結構好きなのです。)や映画「寅さん」(さくらさん結構好きなのです。)でも同様な文言が出てきますネ。

それから、引用元を忘れてしまいましたが、私の好きな言葉、
“The best way to happiness is to make the most of what we have, instead of complaining about what we don’t have.”
私のつたない和訳ですが、「幸福への最善の道は足りないものを嘆くことではなく、持っているものを最大限に活用することである。」、とでも訳しましょうか。

充分な知識を持ち、その知識を最大限利用していくことは、よい「選択」を導き出すことができ、「幸せ」へと繋がっていくのです。

・・・何か違う世界へ入っていってしまいましたね。元に戻します。・・・

木質構造教育により、木質構造に関する正しい知識を有する方々が日本にたくさん増えて、その知識を最大限利用していくことで、世界中の多くのこどもたちを幸せにできるだろうと考えています。


◆さいごに

いろいろと書きたいことがまだまだあります。

1)木造建築における常時微動測定について ~最近の研究から常時微動測定でココマデ分かる木造建築の構造性能~
2)一般向け木質構造教育について ~命を守る心得~
3)実務者向け木質構造教育について ~より高度な設計を~
4)木質構造研究・構造計画・構造設計・構造計算・構造解析の現状について
5)木造建築のちょっとしたいい話 ~ハンカチを用意してから読んでください~
6)木造建築のちょっとした裏話 ~ミステリーなしでは語れない木質構造~
7)構造調査の方法について ~調査後のデータ処理が命運を分けます~
8)木質構造Q&A
9)木質構造における国際会議の動向(今年10月開催予定のフィンランドでの国際会議を小原はサボる予定です。キートス。)
10)全棟モニタリング木造建築のすすめ(建物や敷地内に、加速度計や温湿度計などモニタリング装置を組み込んだ木造建築をつくっていくべきだと考えています。最近小原はこれに力を入れています。)
11)木造建築と地盤 ~地耐力だけではなく、沈下量も考えよう~
12)地盤調査アラカルト ~各地盤調査方法の長所と短所~
13)設計事務所&工務店 自社仕様オリジナルスパン表作成のすすめ
14)接合部の構造計画と構造設計
15)水平構面の構造計画と構造設計
16)基礎の構造計画と構造設計
17)耐力壁の構造計画と構造設計
18)コハラカップについて
19)木造建築の構造改修のつぼ
20)猫と一緒に考える木質構造 ~猫をじっと見ていると木質構造が分かる!!~
などなど。

しかし残念ながら、小原はこれでブログ担当から御役御免となってしましました。また、リクエストなどのコメントを戴けましたら、小原にブログを書くチャンスが与えられます。その時に、皆さんにまたお会いできたらと考えております。

1週間という長い間、御愛読戴きまして、まことにありがとうございました。

明日以降のブログも各担当者が熱心に更新して下さいますので、どうぞ楽しみにして下さい。


末筆ながら、木質構造研究および教育に係わる者として、
東日本大震災による被災者の皆さまに心からのお見舞いと哀悼の意を表します。


今週の小原のブログは、ここまで。
I’ll be back.